よい航海を (2015/10/11完成)(2016/11/23公開)
はじめに
このシナリオは『クトゥルフ神話TRPG』に対応し、『ラヴクラフトの幻夢境』を参考に制作されたものです。
舞台は現代日本(2015年想定)、探索者たちがそれぞれの事情でとある島を訪れようと船着場にやってきたところからスタートします。
<回避><目星><水泳>技能を持った3、4人の探索者向けにデザインされており、プレイ時間は4時間程度でしょう。
また、このシナリオはロスト率・殺意が高く、随時イベント処理などが発生するため初心者のPL、KPには非推奨です。
加えてどうあがいても後味が悪くなるシナリオなので、心が優しすぎる人にもオススメしません。
KP情報
シナリオ背景
蟻鹿島(ありがとう)と鹿馬湾(かまわん)を結ぶ海域には、古くからドリームランドへと繋がる道があった。運悪くそこを通る船は皆行方不明となり、それに困っていた船乗りたちは長年の研究の末、そこを根城にしていた神話生物――クラウドビーストたちと契約を結ぶことに成功する。
契約の内容は『30年に1度、印のある決められた船に乗った者の肉体と魂を生贄として捧げる。その代わりに他の船に手出しをしないでほしい』というものだ。それに従い、人々は1925年から蟻鹿丸を出航させてきた。しかしこの事情を知る者は各船長のみで、乗組員はそれを知らない者がほとんどだった。
霧の出る日は『許可のある船以外』出航してはならない。周辺の船乗りたちはそれだけを伝えられている。罪のない者たちの命と引き換えに、この海域の安全は守られているのだ。
そして、3度目の生贄を捧げる日。
探索者たちは蟻鹿丸に乗り込むこととなる‥‥。
NPC/神話生物データ
同行NPC①:山鹿 透也(やまが すきや)
STR18 DEX10 INT12
CON13 APP9 SIZ15 EDU9
POW11 SAN50 耐久14
/特記技能
応急手当70、天文学40
本土の中年、海より山派。友人の手伝いで乗船したため詳しいことはほぼ知らない。
船にはすこぶる弱く、船酔いのため応接室で休みに来て探索者たちと遭遇する。
探索者が耐久ダメージで死にそうな場合など、代理死亡要員として使用。
吐きたがりトイレへ行くなどして、さちとの遭遇を誘導してもいいだろう。
同行NPC②:海野 さち(うみの - )
STR7 DEX17 INT13
CON11 APP14 SIZ3 EDU6
POW9 SAN34 耐久7
/特記技能
精神分析70
本土で父と暮らす小学三年生。島にいる母に会うため船にこっそり乗り込んだ。
トイレでの遭遇時不定の狂気(制御不能のチック)に陥っており、自分からは出てこない。
一緒に行動し、気にかけてやると脱出時に役立つ情報を教えてくれる。
覚醒の世界では既に死亡しているがそれに気づいておらず、お守りに精神のみが宿っている。
「買ってもらったばかり」のアラレちゃん(もしくは一昔前のアニメ)の服を着ている。
確定死NPC:船員たち
必要になった場合、以下の名前を使用する。
船長:真黒(まぐろ)‥‥この船の使命を知っていた人物。スプラッタ。
1の部屋:三馬(さんま)‥‥フラグ人間。部屋にて毒殺。
2の部屋:佐原(さわら)‥‥トイレで半裸で失血死。かわいそう。
3の部屋:白洲(しらす)‥‥綺麗好き。皮肉にも掃除用品で呼吸困難・中毒死。
4の部屋:佐波(さば)‥‥‥漫画が大好き。ビビ派。
5の部屋:鈴木(すずき)‥‥山鹿の友人。佐波と共に雲に吸収された。
敵性NPC:青年
STR?? DEX?? INT??
CON?? APP12 SIZ13 EDU??
POW?? SAN?? 耐久??
船着場で困っていた探索者が声をかけることになる青年。
第一蟻鹿丸の犠牲者であり、雲の獣と同化し手先として使われている。
探索者を乗船させる前の時点で一人船員を殺害し、その服を奪って成り代わっていた。
青年を疑って調べるなら、船員の部屋で乗組員の写真を見つける、もしくは山鹿の口から若い船員は乗船していないことを知ることができるだろう。
神話生物①:小型の雲の獣(幻夢境106P参考)
STR該当せず CON5 SIZ10
INT1 POW11 DEX12 耐久力39
/技能
噛み付き 40% 1D3+1
触肢 25% 噛み付きダメージ1D6UP
/装甲
なし。貫通する武器はダメージを与えない。
毎ラウンドSIZと同じ値の耐久力を回復する。
(触肢の形成にかかる耐久力は今回は無視。石を使った場合のみ消滅。)
DEX順に行動。探索者が逃げる場合はDEX12との対抗ロール。
倒せないこともないが、また石を使わない限り新しい雲の獣が入ってくるので逃走が無難だろう。
雲の獣はまずランダムで対象を決め<触肢>を1回行う。
その後、1D(PL数)ロール。出た数だけ各対象を決めて<噛み付き>を行う。
探索者が噛み付きを回避できなかった場合、ダメージロールの値と対象となった探索者の[SIZ+POW]の対抗ロール。
ダメージが勝った場合、探索者は雲の獣に吸収され、実質ロストとなる。(※イベント参照)
※探索者は触肢に巻き付かれたままでも逃げることができるが、再度遭遇した場合巻き付いている触肢1本につきダメージロールが1D6ポイント上昇した状態から戦闘処理となるため、吸収される危険性が高くなっていく。
▲
神話生物②:深きもの
STR14 CON10 SIZ16
INT13 POW11 DEX10 耐久力13
/技能
鉤爪 50% 1D6+1d4
船の周囲を常に取り巻き、雲の獣のテリトリーである船から逃れ出たものを狙うハイエナ的ポジション。
今シナリオ内では彼らとの戦闘は想定していないため、もしPLが水中で彼らと戦おうとするなら勝ち目がほぼないだろうと忠告しやめさせること。
キーパリングについての補足
シナリオを使用する前にご一読ください。▼クリックで各項目が開きます。
このシナリオにはPLに直接伝えない3時間の時間制限があります。
その特性上、すぐに対応項目を参照できるようメモに再編集・紙に印刷するなどしておくと良いでしょう。
また、製作者は船舶について詳しくありません。
セッション中にPLのリアル知識とシナリオ内の情報でクリアに不都合のある矛盾が生じそうな場合は「このシナリオではそれとは違う設定をしている」と伝え、無駄な時間を取らせないようにして終了後にシナリオの不備をお伝えください。
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本シナリオにおいて、探索者の第一目的は『時間内にこの船から脱出すること』です。
巻き戻る時計で時間制限に気づき、「幻世界へ」や魂の檻などから船を離れたほうがいいと思い、船の周囲を取り巻く深きものの攻撃を避けるために呪文を使用して脱出‥‥という流れが想定される最もシンプルなクリアルートでしょう。
しかし、その方法を探す中で探索者たちは脱出には必要のない情報も数多く手に入れることになります。
よりよいエンディングのためには必要なものもありますが、探索者たちの時間を奪い、脱出という目的を見えにくくするために『わざと』脱出に関するもの以外の情報を不足させています。
後述する金庫の開け方のような、解こうと思えば解けるかもしれない程度の情報しか与えない、解かせる気のほとんどない暗号がいい例でしょう。
たとえ船内で手に入れられる全ての情報を調べ尽くしたとしても、シナリオ中で探索者が背景事情にたどり着くことはありません。
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本編
導入
探索者は鹿馬湾(かまわん)から蟻鹿島(ありがとう)への連絡船乗場で途方にくれている。
洋上に薄い霧が出ているらしく、突然連絡船が欠航となったのだ。
どうしても今日行かなければならない用があり、頭を抱えていた探索者たちの目の前に出港準備をしている船が一隻。
荷物を運び入れている船員たちの一人、若い船員に声をかけて事情を話すとちょっと待っていてくれと中に消え、しばらくして船長の許可が取れたと船内へ案内してくれる。入ってすぐ、応接室と書かれたプレートの部屋へ探索者たちを案内した船員は「航行中はこちらも忙しいのでこの部屋の中で我慢していてください」と告げる。乗せてもらった身、探索者たちは了承するだろう。
天気が悪く、速度を落とすため島までは三時間ほどかかると告げられたが、その程度大人しくしていられないほど子供でもない。
狭くはないが、決して広いとも言えない船室の中、自己紹介や当たり障りのない会話などで探索者たちは時間を潰すことになる。
そして、出航からだいぶ経った頃。
唐突に、船室のドアが開いた。胸の辺りを抑えた、船員と思わしき顔色の悪い中年男性が入ってくる。
「‥‥誰だ?お前ら、一体、」
男が言葉を紡ぎ終える前に、船が大きく揺れ、全員が体制を崩しかける。後方から異音。
ゆっくりと、スクリューの回転する音、波をかき分ける音が消え、船は波に揺られる鉄の箱と化した。
逃げ場のない洋上で起こった明らかな異変に<SAN0/1>、ここから探索を開始する。
ここからKPは秘匿で3時間のカウントダウンを開始する。
ストップウォッチやタイマーを使い、3時間をオーバーすればその時点でバッドエンドへ。
・時間計測:探索、RP、PL相談など。基本的にタイマーは動かし続ける。
・例外:ダイスロール中、SANチェック処理中、戦闘処理中などはタイマーを停止。
KPの情報提示でタイムロスが起こりそうな場合も停止すると良いだろう。
・船内の時計を見て「現在時刻は?」と聞かれた場合『12時+残り時間』を伝える。
※▲
イベント
時間経過で発生
ミーティングルームの穴を塞いでいない場合、小型の雲の獣が完全な形で侵入してしまう。
ここから、2階の部屋を移動する度にKPが秘匿ロール<雲の獣の幸運(55)>をロールする。
成功した場合、下記描写を読み上げ戦闘処理となる。戦闘時の処理は『NPC/神話生物データ:小型の雲の獣』を参照。
あなたたちの視界に白いものが映る。その塊は、まるで小さな雲のように見えた。
しかし、雲ではない。球根のような目、ひん曲がった口、ロープのような触肢。
生きている雲。
それは何の音も立てずに、すうっとこちらに向かってきた。
<SAN0/1D6>
△
『魂の檻』があるため以降も船上で行動することはできるが、この時点で探索者は死亡する。
以下の文章を対象PLにのみ送ること。
『がり、と、噛まれた感覚がした。一瞬意識が飛び、そして、するりと触手が解かれる。
あなたは、すぐに理解してしまった。自分は存在するが、存在しない。
自分は怪物に噛まれ、吸収されたのだ。
自分の体は雲の怪物と同じものになっている。雲と全く同じ構成をなされていることがわかり、また目の前の小型の雲は怪物のほんの一部で、きっと近くにいる本体はもっと大きいものだということも。
通常の攻撃はあまり効果がないように思うが、存在しているので消す方法もあるだろう。しかし、本体が消えてしまえば自分はどうなるかわからない。
それとは別に、自分の精神はこの船に囚われているようだ。原因を取り除かなければ、永遠にどこに行けることもないだろう。
(※行動はこのまま続けられますが、他のPC・PLに申告する場合は他PCに<SAN1/1D4+1>です)』
△
この遭遇処理はPCが『粘土などを使って完全に穴を塞ぐ』もしくは『石を使って小型の雲の獣を消滅させる』まで何度でも発生する。
▲
探索者たちは空腹のため気が散って全ての技能に-5の補正が入る。
この補正は探索者たちが『缶詰を口にするまで』続く。(※蛆虫を手に入れさせるための誘導)
※描写例
ふと空腹を感じる。そういえば、昼は船内のレストランで食べる予定だった。
乗船から何も口にしておらず、我慢できずに腹の虫が鳴き出すものもいるだろう。
以降、全ての技能に-5の補正が入る。
▲
条件で発生
部屋に入ってきた男は「なんだ?今の‥‥」と不安そうな、訝しげな表情をしている。
船員の他に乗船者がいるとは聞いていなかったらしく、探索者たちを密航者か何かと不審がっている様子。会話には応じるが、長話はせず非常事態かも知れないため操舵室へ様子を見に行ってくると告げる。
ここで探索者が大人しく待っていると『山鹿襲撃』が発生し山鹿が死亡する可能性があるため、体調が悪そうなことや不安がっていることを描写して同行を申し出させるといいだろう。
「何も聞いてねえ、俺は知り合いのよしみで手伝いに‥‥ああくそ!船なんか‥‥」
「俺は今から操舵室へ向かう。なんだか知らないがとにかくここから動くんじゃねえぞ!」
▲
<山鹿の幸運(55)>失敗で雲の獣に襲われ消滅、操舵室前に6と書かれた鍵が残されている。
成功したなら耐久-1。白い何かを避けた時に転んで膝を擦りむき、慌てて探索者の元へ逃げてくる。
「霧の中から、何かに‥‥攻撃されたんだよ!」
△
RPや技能などで落ち着かせ、ある程度信頼関係が築けている場合のみ発生する。
大きな部屋を調べるなどしていると、さちが小さく歌を口ずさんでいるのに気づく。
詳しく話を聞いてやると母から教えてもらった魚を呼べる歌だと答え、探索者が望むのであれば歌を教えてくれる。探索者は『銀の波の歌』を習得できる。
《銀の波の歌》(公開情報)
・コスト:2MP
・詠唱条件:餌を水中に置く
※この呪文は安全な脱出に必要となるが、効果が発揮されるまでに1d6分時間がかかる。
所要時間についてはPLに公開せず、さちの台詞でそれとなく時間がかかることを匂わせる。
「これ‥‥お母さんが教えてくれた歌なの。お母さんが歌ってちょっと待つとね、お魚さんがいっぱい来るんだよ」
「お母さんは島にいて、どうしても会いに行きたくて‥‥船に隠れて乗っちゃったの、ごめんなさい‥‥」
▲
探索者が鞄を預かるか、中身を見せてくれるように頼むと鞄の中身を確認することができる。
中にはお絵かき帳とクレヨンが入っており、お絵描き帳は男性と女性と少女(さちの家族)の絵でいっぱいだ。
ページを捲っていくと髪の長い女性と少女らしき人物が波止場でその手から何かを海に撒いている絵に目が止まる。海にはたくさんの魚が描かれており、女性のそばには音符マークが書いてあるので歌でも歌っているのだろう。
「お母さんがね、お魚さんの餌を海に入れてね、歌を歌ったらね、海が銀色になったの!」
「すごくたくさんのお魚さんが来たんだ!」
この会話から『さちの歌』や『さちのお守り』に話を繋げてもいいだろう。
△
探索者はさちと関わる中で、彼女がぎゅうっと胸の前で首から下げた何かを握り締めていることに気づく。
何かと尋ねれば母がくれたお天気のお守りだと答え、少女の手よりも一回り小さい巾着を見せてくれる。中には白い紙で幾重にもくるまれた小さく透明な石が入っている。鉱物のようだがとても柔らかく、暫く光に当てていると、色が黄色がかってくる。
探索者が必要とするのであれば<説得>に成功することで借りることも可能。
<地質学>に成功するか鉱石の本を手に入れているならば『ミュース石』であることがわかるだろう(個室:5参照)。
これを小型の雲の獣に使用すると消滅させることができるが、さちの依り代であるため、彼女も存在を保てなくなりどろどろに溶けて無くなってしまう。
「お天気を晴れにするお守りなの、前にお母さんがくれて‥‥」
「これが一番大事なんだ。どんなときでもお守りがあると、大丈夫だーって思えるの」
△
探索者が船の周囲を泳ぐ深きものたちへの対策を取らずにボートを下ろして脱出しようとした場合、山鹿が自分が乗ってボートを降ろし、体制を整えてから順番に乗り込もうと提案する。
(もしPLが「山鹿は一人で逃げるのでは」と疑うようなら全員乗れる大きさのため山鹿が探索者を見捨てるメリットはないと強調する)
ボートを海上に降ろし、安定したところで山鹿は探索者たちを仰ぎ、大丈夫だから順番に降りて来いと言う。
その瞬間、波間からいくつかの影が飛び出し、山鹿を掴んで海中に消える。しばらく待っても山鹿は浮かんで来ず、その影はボートを沈めてしまうだろう。<SAN1/1d3>の処理を行う。
「まずは俺が乗ったまま降りてみよう。一応、転覆に備えての扱いは知っているから任せてくれ」
「よし、なんとかなりそうだな!お前らもロープを伝っ」
※PLたちがボートを降ろしてからその上で呪文を唱えようと考え行動しているようであれば、このイベントは起こさなくて良い。
△
言葉で諭そうとするなら初めは何を言っているのか理解できないといった不安そうな表情で話を聞いている。
否定の言葉を口にしながら次第にどんどんと顔色が悪くなっていき、新聞記事を見せたり追求を続けるなら悲鳴をあげて探索者たちを振り切り、近くの部屋に逃げ込んでしまう。
追いかけて部屋に入るとそこには誰もおらず、古びたお守りとぼろぼろのリュックだけが落ちている。
「‥‥?なに?何の話なの‥‥?こわいよ‥‥」
「やだ!やだ!そんなこと‥‥そんなことないもん、やだ‥‥おかあさん!!おかあさん助けて!!」
※このイベントが起こった以降、さちが登場することはない。
△
このイベントはほぼ必ず発生する。避けられるのは、『フロントウィンドウから外を見ない』か『フロントウィンドウから外を見たが、それ以降一度も甲板に出ない』二つの場合のみだろう。
甲板に出ると、霧がここだけとても濃くなっていることに気づく。
そして、その霧の中から船員服を着た青年が歩み寄ってくる。探索者たちをこの船に乗せた、あの若い船員だ。
青年は無表情で「まだ辿り着くまでに猶予はあるんだ‥‥でもここにいるやつが欲しいって‥‥だから、時間まで待ってあげるには、一人、差し出してもらわないと‥‥」と呟く。
背後には白く大きな雲の塊が控えており、今にもそのロープのような触肢をこちらに伸ばそうとしているのが見える。
ここで、探索者とNPCの中から一人犠牲を選ぶこととなる。
探索者を選べばその時点で探索者はロストとなるため、KPはできるだけ避けるよう警告する。
勿論この間もカウントダウンは続いているため、探索者のキャラクター的に他人を犠牲にできないとPLが悩んで時間を浪費しないよう「NPCに関してはPL宣言で対象に選べます」とも付け加える。
その瞬間、青年の後ろから、ぬるりと白い触手が飛び出した。
あなたたちが認識するよりも速く、それは○○を掴み上げた。
響く悲鳴。助けを求めるようにこちらに伸ばされる手、強ばった表情。
それらは白に飲まれて掻き消えた。<SAN1/1D3>
そして雲はゆっくりと上へ登っていく。
それを見上げていた青年も「じゃあ、がんばって」という無機質な声とともにその場から掻き消えた。
(※犠牲にしたのがさちの場合、まるで随分昔の物のようにボロボロになった彼女の鞄が落ちている)
△
PCが進み出ると青年は「あなたが犠牲になるのか」と声をかける。
肯定を返すと、自分で歩いてくるようにと雲の前からどく。
(RPをしてもいい。最期なのだから、タイマーは止めておく)
あなたはその怪物の中へと、歩んでいく。
優しくあなたを迎え入れたそれは、ゆっくりとあなたを包み込み‥‥あなたの全ては、白になって消え失せた。
(※残したい持ち物があればひとつだけ許可する)
△
探索者が金庫にあった石をその雲に向かって投げると、石が白に吸い込まれたと思った次の瞬間、それは急激に形を変え始める。
雲の怪物から、ぼたぼたと体液のように雨が降り、甲板を濡らす。
怪物はあなたたちへと触肢を伸ばすが、狙いは外れ、当たらない。
そして、そのまま、雲は内部の水を吐き出して消滅した。
その場に残された青年は、それを呆然と見ていたが、やがて「どっちみち、時間は残されていないんだ」と苦しそうに呟き、雲のように霧散した。
△
▲
探索者たちから『船を爆破したい』などの発言、PL相談が行われた際<アイデア>を振らせる。
③の個室で爆破のヒントを得ているか、各洗剤を発見しているか、エンジンの状態を知っているかなど情報の集まり方によってKPは出す情報を適宜調節すること。
※アイデア成功情報
・③の個室の本に『塩素系の洗剤と酸性の洗剤を混ぜると塩素ガスが発生し、火気で爆発の危険がある』と記されていたことを思い出す。
・だが、何か対策をとらなければ有毒ガスにより人体に影響が出てしまう(ガスを吸い込まないような対策が取られない場合、風呂と同様のCONロールが発生する)。
・ハイターは塩素系、サンポールは酸性である。
・これだけでは大きな威力は出ないだろうが、熱を持っていたエンジンの近くで爆発させれば非常に大きな誘爆が起こるのではないだろうか。
・しかし、火をつけてすぐ爆発すると巻き込まれる危険性もある(至近距離で着火した場合、2D6ダメージ)。
・導火線代わりになるものはないだろうか(→山鹿の部屋に入っていたなら蚊取り線香を思いつくことができる。<知識/2>で1時間で10cmほど燃えることもわかって良い)。
空の瓶などの中でハイターとサンポールを混ぜ、塩素ガスを発生させる。
蓋を閉め、導火線になるようなものを差し込む(どのくらいで火が内部に到達するように仕組むか聞いておく)。
エンジンまで泳ぎ、水面上に出ている部分に作成した簡易爆弾を置き、火をつける。
時間内に船から脱出。爆発に巻き込まれないように船から離れる。
※△
△
探索者たちが呪文を手に入れ、船から脱出することを決めた際に発生。唱える呪文を聞き、各処理を行う。
(※これらは行おうと思えば船底でも行える。その場合ボートは使用できない)
呪文を使用するものは、缶に入っていた蛆虫を水面に撒き、コストとして2MPを減少させなければならない。
その後、1d100と1d6をそれぞれロールする。すると、1d6分後に1d100匹の魚が集まってくる。
必要なだけ網などで捕獲し、手に入れることができる。
この1d6分は実際にその時間待たせても、1d6分経ったという処理にして残り時間から引いてもよい。
△
呪文を使用する者はまず、《銀の波》で集めた小さな魚を海に捧げなければならない。
その後、MPを好きなだけ消費し、[消費MP-1×10]の目標値でロールを行う。成功者は続けて1d100を振る(幸運ロール)。
幸運ロールに成功すると後に現れるイルカが一匹増えるが、魔術的支配の対象となっていないため特に言うことは聞いてくれない。
しばらく待つと、暗い水面を割いて三角の背びれが現れる。それは海の遣いであるイルカだ。
[呪文を唱えた人数+幸運成功数]匹のイルカたちは、探索者の近くまで来ると命令を待つように顔をあげてキュイと鳴いた。
(※術者が幸運に成功していた場合、呼んだイルカのうち魔術的支配の対象になっていないものもいると教える)
一匹につき一回しか命令は行えない。相手が思考しなければならない命令はノーカウントとなる。
術者の命令に対して彼らはわかったと言うようにその場でジャンプを返してくる。
彼らに『船から遠くに連れて行ってくれ』『島/港に戻りたい』などと伝え、船から海へと逃げる場合イベント▼脱出決行の処理を行う。
・ハンドウイルカ(マレウス274-275Pオオメジロザメ参考)
STR27 CON20 SIZ22
POW13 DEX13 耐久21 装甲4
頭突き 65% 2D6
△
呪文を使用する者はまず、血を海に捧げなければならない。
その後、MPを好きなだけ消費し、[消費MP-1×10]の目標値でロールを行う。成功者は続けて1d100を振る(幸運ロール)。
幸運ロールに成功すると後に現れるサメが一匹増えるが、魔術的支配の対象となっていないため船内で怪我を負ったものがそのまま海に浸かった場合、襲いかかってくる。
(上記の[消費MP-1×10]の目標値でロールを行う処理を再度させて支配できたとすると後に安全)
しばらく待つと、暗い水面を割いて三角の背びれが現れる。それは海の支配者であるサメだ。
[呪文を唱えた人数+幸運成功数]匹のサメたちは、探索者の近くまで来ると命令を待つようにその場で小さく旋回した。
(※術者が幸運に成功していた場合、呼んだサメのうち魔術的支配の対象になっていないものもいると教える)
一匹につき一回しか命令は行えない。相手が思考しなければならない命令はノーカウントとなる。
術者の命令に対して彼らはわかったと言うようにその場で水しぶきをあげて返事を返してくる。
彼らに『船から遠くに連れて行ってくれ』『島/港に戻りたい』などと伝え、船から海へと逃げる場合イベント▼脱出決行の処理を行う。
・オオメジロザメ(マレウス274-275P)
STR27 CON20 SIZ22
POW13 DEX13 耐久21 装甲4
血液を嗅ぎつける 95%
噛み付き 65% 1D8+2D6
△
なお、探索者たちが海へ入った時点でカウントダウンを停止する。
▲
探索者たちは海のものに導かれ、悪夢が具現化したような船から遠ざかっていく。
以下の条件に当てはまるものがある場合、描写・処理を挿入する。
船内で既に雲の獣に噛まれその一部となってしまった探索者は、他の探索者たちが海に入ってもそれを船上から眺めるだけで船から出られない。
以下の文章を対象PLに送り、RPの時間を設けてもいいだろう。
『あなたは、この船を出られない。船に精神を、怪物に体を引っ張られる。
彼らとはここでお別れのようだ。』
△
怪我をしている探索者の中からランダムで対象を決めた上で血液を嗅ぎつけるロールを行う。
成功した場合、サメは対象に噛み付き攻撃をしかける。
探索者の海中での戦闘行動は救命具を付けていない場合技能値が二分の一になる。
サメを戦闘不能にするか、再度支配を行うか、適切なRPで切り抜けない限り怪我をしているもののうち誰か一人が死ぬまで上記処理を続ける。
△
海に飛び込む前、もしくは船から遠ざかる最中に最も親切にしてくれた探索者にお守りを渡す。
中の石を使用するのは小型の雲の獣に対してなのでアイテムとしてはもう意味はないが、これを持って生還した場合さちも救えたという処理になる。
もしエンディング後で探索者がさちの母を訪ねれば手厚く感謝を述べられるだろう。
「これ、お兄ちゃん(お姉ちゃん)にあげる。一緒にいてくれたから、お礼に」
「お母さんがね、困ったときに使うって言ってたの。わたしはお兄ちゃん(お姉ちゃん)たちのおかげで困ってないから‥‥」
「お兄ちゃん(お姉ちゃん)が困ったときに使ってほしいな」
△
船から離れていく途中でふとさちに目をやると、彼女の体がぐずぐずと溶け出しているのに気づく。
彼女は既に亡くなり、その魂は檻に囚われているため船から逃れられなかったのだ。
困惑と恐怖で震えながら、救いを求める小さな体は波に飲まれて消えてしまう。
「どうして、どうして?」
「助けて、おにいちゃ」
△
ボートを使用せず、海のものに捕まりながら自身で泳いでいる場合は<水泳+20>でロールを行う。
成功すれば難なく船から離れていけるだろう。
予定した時間になると、探索者たちの背後から轟音が聞こえ、振り返れば船が沈没していくのが見える。
真っ二つに割れた鉄塊から薄青い光が幾筋も立ち上り、分厚い雲を切り裂いて天へと登っていく。
船に囚われていた魂たちが解放されたのだ。
そして衝撃が波となって探索者たちを追いかけてくる。
追いつかれまいと、海のものたちはぐんぐんと速度をあげて探索者たちを目的の場所へと連れて行こうとするだろう。
△
波をかき分け進んでいく背びれに必死でしがみついているうちに、だんだんと体から力が抜けていく。
そして、ゆっくりと探索者たちは意識を失う。エンディングへ。
▲
[応接室]
しっかりとした木の机と椅子、壁には時計、その下に船内の見取り図が貼られている。
波に反射する光にカーテンを引いてしまったが窓もあり、上はガラス、下は木の引き戸がついている棚も備え付けられている。
■見取り図
上記画像をPLに渡す。
下の切れている部分を気にする発言があった場合は<目星>を許可。
途中で切れてしまっているが、まるで元からこの形にするために切ったような綺麗な切り取られ方に見える。
□カーテンのしまった窓
カーテンを開けると、船の周りに霧が出ており視界が悪いことがわかる。
<目星>に成功すると水面で何か影が跳ねた気がする。
出目がよければ霧の中に太いロープのようなものが見えた気もするかもしれない。
□机
椅子、上に置かれているペン立てなどは動かせる。
机は床に固定されている。
■時計
確認すると、出航から3時間ほど経っており、また、時計の針が逆回りに回転していることに気づく。
船にある時計は全て同じ処理だが、探索者と山鹿の時計は通常通りに時間を刻んでいる。
なかなか時計を確認しない場合、部屋を移動する度「この部屋にも時計がありますね」と誘導。
□棚
上のガラス戸を通して見えるのは数冊のマニュアルだ。
<目星>で非常時に対応したものを見つけることができる。
船員はまず非常事態の原因を突き止め、無線などで連絡をとり船長の指示で‥‥などと書かれている。
船が航行続行不可能となった場合は救命具をつけ、折りたたみボートで脱出するようにとの記述があり、その装着や組み立て方法を覚えることが出来る。
また、下の引き戸を開けると救命具が[探索者の人数÷2・端数切捨て]着入っている。
装着した場合、水中での行動技能に+20、平常では行動技能に-10(装甲1)となる。
[風呂・水回り]
洗面台、洗濯機のある狭い空間。左手には扉があり、恐らく風呂場だろうと察しがつく。
□洗面台
鏡のついた棚があり、そこを開けると歯ブラシやコップなどが収納されている。
□洗濯機
中に何か入っているものも、動いているものもなく綺麗なものだ。
そばには空っぽになったアリエールの容器と少し残っている漂白剤(ハイター:塩素系)がある。
■風呂場
ガラスの戸を開けると、蓋のされた浴槽がある。
蓋を開けるとそこには薄く張られた冷たい水と、その中に半身を浸した人間がいた。
船員服を着た彼は、眠っているようにも見える。
しかし体に巻きつけられた縄、薄く開いたまま動かない目と口に、その命は奪われた後だと嫌でもわかるだろう。
<SAN0/1D3>
SANチェック処理後<強制聞き耳>を行わせ、成功すると刺激臭がすることに気づく。
加えて<知識><化学>を行うとこの臭いは塩素ガスのものであると理解できる。
成否に関わらず、近くにいる探索者は中毒状態に陥る。
塩素ガスを吸い込んだ探索者は1つの行動ごとにCONロールを求められることになる。
進度は1から始まり、数字が大きくなるにつれ重度の中毒症状を発症する。
また、ガスの発生源から離れれば進度2までは自然治癒し、進度3、4は1D20+20分間補正が解除されない。
進度5ならば<医学><応急>に成功することで進度3に軽減。
進度6は<医学><応急>に成功することで行動不能1D5+5分後、進度4に軽減。
・進度1:咳が出る。直ぐ様<CON5>をロールし失敗で進度2へ。
・進度2:喉や肺が痛み出す。直ぐ様<CON4>をロールし失敗で進度3へ。
・進度3:呼吸が苦しくなり、嘔吐感を覚える。肉体を使う技能に-10の補正。
次行動後<CON3>をロールし失敗で進度4へ。
・進度4:頭がガンガンと痛み、視界に映るものが黄色く見え出す。全ての技能に-10の補正。
次行動後<CON2>をロールし失敗で進度5へ。
・進度5:感覚が失われていき、その場に倒れ込んでしまう。行動不能。1分後<CON1>をロールし失敗で進度6へ。
・進度6:1ラウンド内に適切な処置が行われない場合、死亡。
□死体周辺
死体自体は<医学>で調べることができる。どうやら呼吸不全で亡くなったらしい。
目、皮膚などに損傷が見られ、嘔吐跡がある。呼吸器の損傷が最も重大なもののようだ。
更に死体が浸かっている液体を気にするのであれば<薬学><化学>に成功すると水ではなく何らかの薬品類だとわかるだろう。
また、<目星>か宣言で死体の服から3と書かれた鍵を見つけることもできる。
[トイレ]
扉を開けた瞬間、鼻を突く、鉄錆の臭い。
探索者たちの目は、手前の個室が半開きになっており、その床から赤いものが流れ出てきているのを捉える。
その個室以外にも、この空間には奥の個室と掃除用具入れがあるようだ。
□手前の個室
半裸の男がそこにいた。
シャツと下着のみを身に付け、トイレにもたれかかるようにして座らされている。
一目見て分かる、致死量の血を首の傷から垂れ流し、男は絶命していた。<SAN1/1D3+1>
男の様子を<目星>で見ると困惑と恐怖の表情を浮かべており、何やら鋭い刃物で切りつけられた傷を発見できる。
<医学>の知識があるならば死後3時間以上経過していることもわかるだろう。
個室内を<目星>で探すと、床にちぎれた船員服のボタンが落ちていることに気づく。
(※探索者たちが乗船時に声をかけた若い船員(青年)を気にするならば、<アイデア>などで彼の船員服は一つボタンがちぎれていたと思い出せるだろう)
■奥の個室
扉には鍵が掛かっている。声をかけても返事はなく、<聞き耳>などを行うと衣擦れの音と押し殺した呼吸音が聞こえる。
上から覗き込む、無理やり扉を開けるなりして中を確認すると小さな体をぎゅっと縮こませカタカタと震える少女を見つけることができる。
彼女は不定の狂気に陥っているため(同行NPC②:海野さち参照)話を聞くには<精神分析>その他RPが必要となる。無理やり連れ出そうものなら悲鳴をあげて逃げ出そうとし、これ以降の交渉に難が発生するだろう。
□掃除用具入れ
モップ、バケツなどの掃除用具は一式揃っているようだ。
<目星>や洗剤を確認する宣言でサンポール(酸性)が見つけられる。
[ダイニング]
他の部屋や通路と比べて開放的な空間。人影はなくがらんとしている。
食事スペースにはテーブルが並んでおり、キッチンは対面式ですぐ料理が渡せるように設計されたもの。
また、甲板へ続くであろうドアも見える。
□テーブル
大きめのテーブルが3つ。缶切りや箸など出しっぱなしのものもある。
<目星>で灰皿のそばに使いかけのマッチかライターを発見しても良い。
(壁には時計がかかっている)
■キッチン
あまり長い航海を想定していないらしく、小型の冷蔵庫が一つ。食器類が入った棚は壁に固定されている。
流しにはスポンジと洗剤、コンロの上には流し下のスペースに入らなかったと思わしき鍋やフライパンが放置されたままになっている。
冷蔵庫には水のペットボトルや瓶のジュース、缶ビールなど飲み物が大量に入っているが食べ物はない。
食器棚に変わった点はないようだ(探索者の欲しがるものでここにありそうなものなら入手できる)。
流しの水道からはきちんと水が出る上、コンロも難なく火をつけられる。
また、洗剤はマジックリン(アルカリ性)を使っている。
流し下のスペースには大きな鍋や包丁が収納されている。
更に<目星>に成功すると、いくつかの缶詰を見つけることができる。
鯖、焼き鳥、ポークビーンズ、クラムチャウダーなどそのまま食べられるものがほとんどのようだ。
《銀の歌》に必要な蛆虫を手に入れるためのイベント。
処理後はイベント:残り1時間によって受けた補正は解除される(もしくは発生しない)。
ポークビーンズを食べた探索者、もしくはランダムで一人の缶詰に蛆虫が混入されている。
食べたものは<SAN1/1D6>その他は<SAN0/1D3>の処理を行う。
驚いて捨ててしまうPLがほとんどだと思われるため、KPは探索者たちが後に蛆虫を必要とした場合に回収できるようにしてやること。
※描写例
異常な空間とはいえ、腹が減っては何も始まらない。
あなたたちは、缶詰を開けてつかの間の食事を楽しむ。
少しして、ふと、○○は口の中の違和感に気づく。口内に入れた食物が、動いているのだ。
あなたは自分が食べていた缶詰に目をやる。
そこにいたのは、豆粒ほどの大きさの蛆虫だった。
口の中でぐじゅぐじゅと蠢くその感触にこみ上げる嘔吐感。
思わず開けた口から、ぼとぼととそれらがテーブルの上に落ち、その場で這いずった。
▲
[甲板]
昼間のはずなのだが、霧の向こうの空にはうっすらと星が出ている。
甲板に視線を下げるが、いくつか機械がある程度で特に目立ったものはないように見える。
甲板に探索者たちが足を踏み入れたその時、ぐらり、と船が大きく揺れる。
探索者たちは思わず入口近く、壁に身を預ける形になるだろう。
<強制目星>を行わせ、以下の描写・処理を行う。
目を見張ったものは気づく。それは明らかに不自然な動きだった。
船の縁から、鈍色の鎖が何かに引っ張られるように姿を現した。
続いて、鎖の先、碇が宙に浮かび上がる。
そしてそれは、スローモーションのようにあなたたちの方へ向かってきた。
探索者は<回避>を行う。<目星>に失敗したものも成功者が声をかけるならロールを行うことができる。
次の瞬間には硬いものがぶつかる重い音、そしてバキバキという嫌な音がして、碇は壁を貫通しダイニングの中にまでその先を抉りこませるだろう。
気づくのが、あと一瞬遅かったら?
壁に突き刺さった碇の鋭さ、それによってえぐれた壁。
探索者たちの背筋を冷たいものが伝い落ちる。全員<SAN1/1d4>の処理を行う。
鋭い金属に抉られたのは壁だけではなかった。
一瞬、ほんの少しの遅れ。周囲に鉄の臭いが広がる。
碇、壁、甲板は、○○の血で赤く染まっていた。
全員<SAN1D2/1D4+1>の処理を行い、加えて失敗者は2d6のダメージを受ける。
▲
□空を見上げる
<天文学>の知識がある場合、星の並びや位置を見るにこの空がどうにもおかしいことがわかる。
この時期に見える星座ではないものが混じっており、まるで一部だけ異世界に取り込まれたような感覚に陥る。<SAN0/1D2>
また、洋上に目印になりそうな島などは見えないが、星ならば目印になるのでは?と思うこともできるだろう。
これ以降空の星を確認すると、ゆっくりとだが確実に一定方向へ流されていることが分かる。
□甲板に目をやる
ロープとそれを巻き取るための機械が数個、非常用と思わしき浮き輪が二つ。
機械を使えばロープにボートなどをくくりつけて海に下ろすことなども十分可能そうだ。
ちなみに、先ほど壁に突き刺さった碇は外せそうにない。
浮き輪は海上で使用すると<水泳>に+10の補正が加わる。
□海を覗き込む
応接室や船底で船の周りを泳ぐ何者かの姿を見ていない場合、ここで情報を出して不用意に海へ逃げるのも危険ではないかと警告する。
[荷物庫]
雑多に荷物が積み込まれている。
天井から電気の紐が垂れ下がっているが、それは引かれておらず中は薄暗い。
仕掛けられていたワイヤートラップが探索者たちを襲うことになる。
全員に<目星>か<聞き耳>のどちらか片方をロールさせ、成功した者は<回避>を試みることができる。
以下の描写・処理を行うこと。
○○が紐に手をかけ、引いた瞬間。一筋のきらめきと共に、空気を切り裂く小さな音が聞こえた。
気づいたものは、本能で反射的に身を捩る。
その刹那、ピシィイイン‥‥と鋭い音が響く。
あなたたちの体があった空間を裂いて、一筋の細いワイヤーが、壁に打ち付けられた。
<回避>できなかった者は<幸運>を振り、成功で1、失敗で1d6のダメージを受ける。
(クリティカルならば回避成功、ファンブルなら6固定ダメージで四肢の一つが取れるなど)
そして、一瞬遅れて痛みがやって来る。
肉の切れた箇所から、ぼたぼたと落ちた血が床を汚す。
耐久減少とそれに応じたSANチェックを行う。
・全員回避に成功した場合:<SAN0/1D3>
・軽傷(ダメージ1~3)を負ったPCがいた場合:<SAN1/1D3+1>
・重症(ダメージ4~6)を負ったPCがいた場合:<SAN1D2/1D4+1>
落ち着いてから荷物庫内を<目星>で探せば、たくさんの荷物の中から役に立ちそうなものを見つけられる。
折りたたみ式ボートにオールが二つ、魚を取るための網(棒のついたタイプ)、クーラーボックスなど。
また、簡単な応急手当セットも手に入れることができる。
[二階・階段]
二階に上がった時点で<目星>を行わせ、成功した探索者はごくわずかな異変に気づくことができる。
うっすらと視界が白く、どこかから外の空気が漏れ入ってきているのではないかとも思うだろう。
(※残り2時間までに穴を探して塞げば小型の雲の獣の襲撃イベントは発生しない)
[操舵室]
中から鍵がかかっているようだ。鍵を手に入れるか、<鍵開け>で入ることができる。
大きな船であれば操舵室、海図室、無線室に分かれているのだが、この船は全てがこの部屋に集約されている。
ハンドルや計器を統合してコックピット化した操縦席、海図など書類がまとめられた四角く高い机。
フロントウィンドウから見える視界は白いもやで快適とは言えない。
‥‥そして、それらのそば、あるいはそれにひっかけたようにして、服が二着落ちている。
探索者に<アイデア>を振らせ、成功した場合「それを着ていた人間がそのまま服を残して煙のように消えてしまった」と思い当たってしまい<SAN0/1D3>の処理を行わせる。
□二着の服
服を調べるとそれぞれのポケットから4の鍵と5の鍵を手に入れることができる。
□操縦席
ハンドルやレバー、スイッチなどの機械がまとめられたコックピット。
大型のコンパスはぐるぐると回転しており、方位がさっぱりわからない。
機械系の技能を持っている、もしくは船に詳しい探索者は適当だと思われる技能に成功することでエンジンは動いており、ここにある機械たちにも何ら問題はないことがわかる。
また、ここを調べた探索者は<アイデア>で探索開始時に聞いた異音を思い出すことができる。
音は後方から聞こえたが、スクリューはどうなっているのだろうか?
□四角い机
上に乗っている書類は蟻鹿島や鹿馬湾周辺の海図だ。
机の下にはあまり開閉されていないように見える金庫が設置されている。
上図のような六つのボタンがついた金庫。鍵を差し込めるような穴や錠前はついていない。
ボタンを押してから取っ手を引くことで鍵が解除される仕組みのようだ。
船自体と一体化するような形で作られており、持ち運ぶこともできそうにない。
『右下→左上→左下→右上』の順で押したあと、取っ手を引くと扉が開く。
中には大きく白い布で包まれた黄色い石が入っている。
片手で掴むには少し大きい、小ぶりな頭蓋骨程度の大きさ。鉱物であるのに少し柔らかいと感じる。
<地質学>に成功するか鉱石の本を手に入れているならば『ミュース石』であることがわかる(個室:5参照)。
「イベント:犠牲の選択」時に使用すると雲の獣を消滅させることができ、犠牲者を出さずに済む。
※考え方
金庫と船員室の番号が対応しており、第一蟻鹿丸の作られた『1925』年が暗証番号。
船員室の番号は6までしかないため、見取り図を上下逆にして6を9に。
あとは順番にボタンを押し、取っ手を引けばよい。
「▼情報の不足」の繰り返しになるが、この暗号は時間を消費させるための装置である。
ヒントがほぼ出ないのは仕様のため、悩むPLたちを尻目にKPは悠然と構えているといい。
▲
□フロントウィンドウ
うっすらと甲板の様子が伺える程度で、進行方向の海上に見えるものはない。
<目星>に成功してしまうと下の甲板に人影を見つける。
船員のようだがはっきりとは見えず、そのうちにすうっと霧に紛れて見えなくなってしまう。
(※以降甲板に向かうと「イベント:犠牲の選択」が発生する)
[船長室]
耐久性に優れた、ちょっとやそっとでは壊れなさそうなドアだ。
ドアノブをひねってみてもドアは開かない。
鍵穴がついているが、回した感じは鍵が掛かっていないようにも思える。
ドア自体がしっかりしたもののため攻撃で破壊できない。
探索者が鍵穴から中の様子を伺おうとした場合、以下の描写・処理を行う。
せめて中の様子だけでも、と鍵穴に顔を近づける。
固定された視界は良好とは言えないが、それでも一生懸命視線を動かしていると、ドアから少し離れた場所に足が見えた。
人がいる。そう思った瞬間、急に視界が真っ暗になった。
ここで覗き込んでいた探索者は<回避>もしくは<幸運>ロールとなる。
咄嗟に身を引く。見れば先程まで自分の目があったところに、細い銀の棒が突き出されている。
それはそのままカランと部屋の中に落ち、きぃ‥‥と音がしてドアが開いた。
もし、身を引いていなかったら‥‥?<SAN0/1D3>
次の瞬間、鋭い痛みが目を襲う。
思わず目に手をやると、ざっくりと抉れた部分からぼたぼたと血が落ちた。
細い何かで、突き刺されたのだ。<SAN0/1D3>後、耐久-1と目星-20。
きぃ‥‥と音がして、無事な方の目でそちらを確認するとドアが少し開いている。
そのまま船長室へ入った探索者を待ち受けているのは船長の凄惨な死体だ。
八つ裂きにされた、という表現がしっくりくるような内部から破裂した胴体、飛び出た内臓。
部屋は彼の血が一面に振りまかれており、彼の顔は激しい苦痛からかねじれ歪み、そこに浮かんだ青筋すら今にも破裂しそうになっている。<SAN1/1D6>(※Cthulhu Casebookより引用改変)
このような船長の死に様に探索者が呆然としていると、その死体はさらさらと白い煙になり、飛び散った血すらも空気に溶けるようにして消えていってしまう。
<SAN0/1D3>
▲
気を取り直して部屋を見回すなら、ひときわ目を引く執務机、そのそばに本棚、ベッド、テーブルが置かれていることがわかる。
内装は他の部屋に比べて整っているが、家具類はさほど良いものでもなく、一言で言えば古いものだと感じるだろう。
■テーブル
スクラップブックが何冊かあり、新聞記事がたくさんまとめられている。
記事は古いものから最近のものまで、鹿馬湾、蟻鹿島周辺のものばかりだ。
<目星>で第一蟻鹿丸、第二蟻鹿丸の船員が行方不明になった記事を見つけることができる。
記事自体は小さめのもので、詳しい記述はない。
また、さちと会っている場合、ある少女が行方不明になったと言う記事も目に止まる。
少女の名前は海野さち。特徴も探索者が知っているさちと一致する。
今から30年前、島にいるお母さんのところに行くと書置きをしていなくなったようだ。
<SAN0/1>
■本棚
何かないかと探すのであれば<図書館>で古びた手帳サイズの本を手に取ることができる。
ほとんどが潮風や経年で傷んでいるが、かろうじて読めるページに魔法陣のような絵と、以下の文章を見つけるだろう。
《魂の檻》
部屋や建物など、それとして他と隔絶できる空間に有効。
開閉できる扉などがあったとしても構わない。
それの内部、最も地下である場所に印を描くことで、空間内で死んだ者の魂を永遠に幽閉する。
作り方も書いてあるようだが理解するには時間が足りず、効果をなくす方法については記述がないようだ。
□執務机
家族の映った写真立てが倒れており、筆記用具が散らばっている。
よく調べるならば、鍵のかかった引き出しがあることに気づく。(鍵はどこにもない)
<鍵開け>か<STR10との対抗>で開けることができ、中には航海日誌が入っている。
ほとんどが何でもない航海の記述だが、気になる記述が一箇所ある。
『次の船長に選ばれた日、もしものときは金庫を開けるようにと伝えられた。
しかし、これは多くの事を思えば避けられないことでもあるのだ。
私たちが一時的に助かったところで、何になるというのか。
きっと父や祖父も、そう思ったからあれを使っていないのだ。』
□ベッド
特に何もない。寝心地はまあまあだ。
[ミーティングルーム]
入ってまず目に止まるのは壁に空いた大穴だ。ここから外気が入ってきているようだ。
穴を塞ぐにしても、隙間を埋められるものがなければ完全に塞ぐのは難しそうに見える。
穴以外には長方形の机、壁の本棚、その近くに絵がある程度。
□長方形の机
懐中電灯が2本転がっている程度で目新しいものはない。
□本棚
本やファイルなど、少し難しそうなものが並んでいる。何かを探すなら<目星>を行う。
失敗すると手をかけた本が勢いよく開く。
そして探索者の手に熱い痛みが走り、思わず本を取り落とすだろう。
落ちた本の隙間から、仕込まれていたカッターの刃がカツンと床に転がる。
耐久に1D3ダメージを受けたあと、技能成功時と同じ情報を手に入れることになる。
成功するとこの船に関する書類をまとめたファイルを見つけることができる。
どうやら1925年に初代の第一蟻鹿丸が作られ、第二、第三蟻鹿丸と、寸分違わず同じ作りの船のようだ。
1925-1955 第一蟻鹿丸
1955-1985 第二蟻鹿丸
1985- 第三蟻鹿丸
(※現在を2015年とする)
これに対して、船に関わることのある探索者は<知識>をロールすることができる。
成功すると『客船やタンカー船は確かに30年ほどで安全性などの観点から海外に転売、もしくは廃棄する傾向にあるが、漁船とも言えるサイズでしかも個人の持ち物である船にしては随分と早く代替わりしている』と感じる。
■壁の絵
映画のポスターのような、青と白を基調とした大型船の絵のようだがあまり明るい雰囲気とは言えない。
額ごと外して見ても裏には何もない。額から絵を出した場合のみ絵の裏に書かれた呪文を習得できる。
《海の遣いへ命令する》
条件を満たし、コストを支払って呪文を詠唱することで海の遣いが一体現れる。
呼び出された遣いは詠唱者の叫ぶ簡単な命令一つに従う。
・コスト:1MP、追加のMP1Pにつき成功率が10%上昇
・詠唱条件:海上で小さな魚を海に捧げる
《海の支配者へ命令する》
条件を満たし、コストを支払って呪文を詠唱することで海の支配者が一体現れる。
呼び出された支配者は詠唱者の叫ぶ簡単な命令一つに従う。
・コスト:1MP、追加のMP1Pにつき成功率が10%上昇
・詠唱条件:海上で少量の血を海に捧げる
~海のものは、海のものに手を出さない。~
▲
[娯楽室]
マットが敷かれた床、ブラウン管テレビとクッションや座布団、背の低い本棚があるくつろぐための部屋といった内装。
大きめの窓もあるが、外はどうにも白く煙っている。
□窓
周囲はやはり霧で視界が悪い。下を覗き込むと、恐らくスクリューがあるのであろう場所が確認できる。
海上に波紋はなく、回転が止まっているようだ。
<目星-10>に成功するとうっすらとその周辺に白い筋が見える。
それはまるで飛行機雲のようだ。しかし、それは常に形を変えてうねっており、海の中へ伸び、まるでスクリューに絡みついているようにも見えるだろう。
■テレビとクッション
テレビはつかない。リモコンやクッションは使ったまま放置されている。
クッションを片付けるなどの宣言があった場合、その下から操舵室と書かれた鍵を見つける。
■背の低い本棚
<図書館>で「幻世界へ」という本を見つける。
小説のため全てを読む時間はないが、前書きのみならすぐ読めるだろう。
また、技能の成否に関わらず「雲の怪物」や「霧の中に潜むもの」といったタイトルの小説も置いてある。
~幻世界へ 前書き~
夢の世界への入り口は、なにも暖かいベッドの中に限らない。
深い洞窟の奥。白い帆船。階段の先。ランプの光。
ふとしたところに、扉は存在するものだ。
だが、気を付けるといい。
君たちがいる世界と夢の世界では、時の流れ、物の形が同じではない。
偶然足を踏み入れてしまったときは、すぐさま帰るべきだ。
もっとも、それが簡単に叶うような面白味のない世界であれば、私はこの物語を書いてはいないだろう。
19XX - Ward Phillips
[船員個室(1〜6)]
一人用のとても狭い部屋。同時に入れて二人程度だろう。
家具はどの部屋も共通でベッド、机、クローゼット程度のものしかない。
鍵が壊れて開いている。机には魔法瓶と飲みかけのお茶、睡眠薬の箱。
ベッドに膨らみがあり、布団を剥がすと土気色の肌をした船員の死体を見つける。<SAN0/1D3>
・お茶:微かに異臭がする。<薬学>などで毒物が仕込まれていると思い当たる。
・死体:<医学>で彼は口に入れた薬物で中毒死したのだとわかる。
また<目星>で固く握られた手に便箋を握り締めているのにも気づける。
内容は恋人に当てたもののようだが、終盤は何やら走り書きのように字が乱雑になっている。
『船長は一体何を隠しているんだ?わからない。
ミーティングルームの絵の裏に呪文じみたものが書いてあった。
わざわざ見えないように、裏紙で隠して、だ。
この船はおかしい。今日の航行が終わったら、船を降りて君と一緒に暮らしたい』
トイレで殺され、服ごと鍵は持って行かれたため<鍵開け>などで開けないと入れない。
物が少なく、目に付くのは机の上の海洋生物図鑑くらいだろう。
《海の遣い/支配者へ命令する》の呪文を見つけているならば<目星>を行う。
成功すれば本の記述から海の遣いはイルカ、海の支配者はサメではないかと思う。
綺麗に整頓された部屋。持ち主は綺麗好きなのだろうか。
机の上の本はほとんどが掃除に関するものだ。
<図書館>か宣言で水回りの掃除に関する本を見つけることができる。
『塩素系のものと酸性のものを混ぜると塩素ガスが発生する。
人体に有害であり、また、火気によって爆発するので危険。密閉空間では使用しないこと。』
机、ベッドの上は漫画だらけだ。
ワンピースや海猿、ジパングなど海に関わりのあるものを片っ端から読んでいる。
漫画に<目星>を行うと、中でもワンピースのアラバスタ編をよく読み込んでいることがわかる。
パラパラと目を通した探索者は<アイデア>に成功すると話の中に出てくる『ダンスパウダー』の説明が引っかかるだろう。
『ダンスパウダー』は未発達な雲に使うことでその成長を促し結果として雨を降らせることができるが、反作用として周囲で降るはずだった雨すら奪ってしまうと書かれている。
更に<知識>か<博物学>のロールによって、同じような効果を持つ物質が実際に存在したはずだということ、また、雲は水蒸気の塊であるので雨を降らし尽くすと消滅してしまうことを思い出すこともできる。
鉱物に興味がある山鹿の友人の部屋。
クローゼットの中には服と一緒に小さなケースが入っており、いくつか鉱石がしまってある。
石に対しては<地質学>が振れるが、黄鉄鉱であるとかの種類がわかるのみで役には立たない。
また、ベッドのそばの鞄には鉱物に関する本が何冊か入っている。
この本を使用し、さちのお守り、もしくは金庫の中身の石について調べるなら<図書館>ロールを行う。
ロールに成功すれば、石の特徴に合致する以下の説明を見つけることができる。
『ミュース石』
ヨウ素を含む珍しい鉱物で、組成はヨウ化銀である。
とても柔らかく、ナイフで切ることが出来る。水には殆ど溶けない。
感光性があり、光に当たると黄緑色を経て黒色化する。
通常黄色で産出するが、純粋なものの結晶は無色透明である。
この文章を読んだ探索者は<化学><博物学><知識/4>のいずれかのロールを行う。
成功すれば、ヨウ化銀は確か人工降雨にも使われていたのでは、と思い出す。
構造が雪や氷の結晶に似ているため、雪の粒を成長させ雨を降らせることができるらしい。
山鹿の部屋。彼が同行していれば難なく鍵を借りることができる。
机の上に何か作りかけのジオラマがあり、あまり綺麗とは言えない。
・机:粘土やスプレー缶、ニッパーやドライバーなどの道具が放置されている。
探索者が興味を持つのであれば、セメントパテの説明をしても良い。
水を加えてこね、しばらく置くことでなかなかの強度に硬化するもの。
(※ミーティングルームの穴を塞ぐために使用できる)
・クローゼット:鞄が無造作に放り込まれている。島についたら装備を整え山に登るつもりだったらしい。
中身は虫除けスプレー、蚊取り線香、ライター、タバコ、タオルなど。
[船底]
階段を下りていくと、海面下の空間には水が入り込んでおり、階段の途中まで浸水していることに気づく。
後方にはエンジンの一部が顔を出しているが、距離があり詳しい様子はわからない。
エンジンの様子を見たい場合、探索者は<水泳>ロールを行う必要がある。
無事ロールに成功したならばまっすぐエンジンに向かうのか、途中で何か調べるのかを聞き、それに応じて情報を渡すこと。
失敗したならCON5ロールを振らせ、フレーバーで溺れさせ他の探索者に助けさせると良いだろう。
■エンジン
近づくと、周辺の水が熱をもっていることがわかる。エンジン自体は動いているようだ。
<機械系技能>か<知識>に成功すると、エンジンはかなり高温になっており、危険な状態ではないかと思う。
強い衝撃を加え、かつ火気があると最悪の場合燃料に引火し爆発、船全体にも影響が出るだろう。
□船底を確認する
水に沈んでしまった船底に赤い模様が描かれていることに気づく。
<目星>に成功すると、それはほの暗い水の中、不気味なほど鮮やかに目に飛び込んでくる。
魔法陣という表現がぴったりに思える図であり、《魂の檻》を知っていればこれがそうだと直感する。
まだ船長室で《魂の檻》についての記述を見つけていない場合は<オカルト>で模様から檻のような印象を受ける、もしくは<神話技能>で一種の結界のようなものだと感じ、この魔法陣が存在する限り、囚われたものは開放されないだろうと思い至っても良い。
□水が入り込んだ穴を探す
潜水して辺りを見回すと鉄でできた船の壁が破れている箇所を発見する。
加えて以下の描写を行い、深きものたちが船の周りで探索者たちを狙っていることをやんわり伝える。
そしてその穴から、こちらを伺う人影。いや、違う。
限りなく人に近いシルエットを持つそれの頭部は魚類のそれであった。
澱んだ海中、魚の瞳がじっとこちらを見つめている。<SAN0/1D6>
それらは中には入ってこようとはせず、船の周りを彷徨いているようだ。
エンディング
エンディングは大きく分けてトゥルー、ハッピー、ノーマル、バッドの4種類。
各条件を確認し、描写後SAN回復と報酬処理を行う。
トゥルーエンド・よい後悔を
[条件:海のものと共に船から脱出する]
気づくと、あなたたちは港に立ち尽くしていた。
天気は悪く、今にも雨が降り出しそうだ。
ふと顔を海の方に向けると、ちょうど一隻の船が港から離れるところだった。
頭が痛い。その痛みとともに、自分たちの身に起こった惨劇をじわじわと思い出す。
凄惨な死体。吐き気を催すような悪意の罠。自分たちのために犠牲になった人。
ぽたり、ぽたりと裂けてきた傷口から血が落ちた。
ゆっくりと、船が遠ざかっていく。
掻き分けられる波とエンジンの音に紛れて、若い男の声が耳に届いた。
「よい、後悔を。」
ハッピーエンド・よい航海を
[条件:船を爆破した上で海のものと共に船から脱出する]
気づくと、あなたたちは港に立ち尽くしていた。
よく晴れた空の下、聞き覚えのある声が聞こえた。
「あんたら、連絡船に乗っていく人じゃないか?
もう出航時間だってよ、さっさと乗らねえと船が行っちまうぞ!」
Tシャツを着た‥‥海より山が好きそうな中年の男が、あなたたちを呼んでいる。
そばには島行きの連絡船が出航の時を待っているようだ。
急いで船に乗り込むあなたたち。割り当てられた席に座り、ふと正面のテレビに目をやる。
そこに映し出されたニュースは、ずっと行方不明になっていた少女の遺体が見つかり、時を経て家族の元へ帰ったと報道していた。
しばらくして、船が動き出す。窓から外を見てみると、先ほど声をかけてきた男の姿が見えた。
港から男が笑顔であなたたちに手を振る。
「よい航海を!」
ノーマルエンド・よい後悔を
[条件:船を爆破し、沈没に巻き込まれる]
轟音が響く。船が揺れる。
バリバリと音がして、船体にヒビが入っていく。
当然だ。船を破壊しようとして、あなたたちは爆弾を使ったのだから。
自分たちの足場が裂け、海中に沈んでいく。どこに逃れる術があるというのか。
流れ込む水流、ちぎれる船体と共に波に巻かれたあなたたちは呼吸を奪われる苦しみの中で意識を手放した。
(KPは探索者それぞれに対し1D100のダメージロールを行う)
後日、ある船がエンジンのトラブルで沈没し、乗員乗客全員が死亡したとの記事が載った新聞が発行された。
家族、友人、知人‥‥あなたを知っている人は、悪い知らせを受けることになるだろう。
どうして、なぜ。
悔やんでも、彼らには何もわからない。
[生き残った探索者]は病院のベッドで目を覚ます。
体にはたくさんの管が繋がれており、全身がじりじりと痛む。
暫くして、あなたが目を覚ましたことに気づいた看護婦が医者を連れてきた。
ほどなくして家族、もしくは友人が駆けつけることになるだろう。
船の沈没事故に巻き込まれたこと、奇跡的にあなたは助かったこと、医者の説明を聞きながら、ぼんやりと考える。
船に囚われていたであろう人の魂は解放されたのだろうか。
少女や、船員はどうなったのだろう。
あの状況に巻き込まれ、協力した人々。
今ここにいるのは、自分だけ。
本当に、これでよかったのだろうか。
バッドエンド・よい後悔を
[条件:3時間が経過する]
あなたたちは我に帰った。
船内が、いつの間にか白く満たされている。
口内から、器官から、霧が全身に巡っていく。
逃げ場などなかった。
意識も、体も。
全てはゆっくりと、白に溶けて、なくなった。
クリア報酬・処理
・トゥルーエンド:SAN1D12+神話技能5/技能成長
・ハッピーエンド:SAN2D10+神話技能3/技能成長
・ノーマルエンド(生還者):SAN1D10+神話技能5/技能成長
2D3ヶ月入院、<幸運>失敗で体の一部にしびれなどの後遺症
・ノーマルエンド(死亡者):ロスト/報酬なし
・バッドエンド:永久ロスト/報酬なし
・PCが全員生還する:SAN1D6
・NPCを助ける(助けられたかどうかの基準はKPとPLの判断に任せる):一人につきSAN1D3
《魚を引きつける(基本258P)》
簡単な歌のような詠唱を2分行う。
1D6分後に地元の魚がD100匹集まってくる。
・コスト:2MP
・条件:水中に餌を置く
《サメ/イルカに命令する(基本258P)》
海の神に人間の生贄を捧げるための呪文。海上でのみ有効。
条件により呼び出された生物は呪文の使い手が大声で下す命令に従う。
・コスト:1MP、追加のMP1Pにつき成功率が10%上昇。
・条件:少量の血もしくは小さな魚を海に捧げる
『Ward Phillips(ウォード・フィリップス)』
幻夢境93P、「アルハザードのランプ」に出てくる小説家。
覚醒の世界ではパルプホラー作家であり、ドリームランドの住人となった。
最後に
映画『ゴーストシップ』を元に執筆中、気晴らしに『ミスト』を観てこんなものができました。
エンディングやあちこちの描写などのほとんどが『ゴーストシップ』をなぞっているので、気が向いたら是非どうぞ。
リアル時間制限・NPCの(ほぼ)確定犠牲・推理要素と自分の苦手なものを詰め込みました。
クリアの方法を脳内当てゲームにしない範囲で、正々堂々できるだけいやらしいシナリオを作ったつもりです。
非難中傷含め不備や疑問などありましたらトップページ下から作者まで連絡をお願いします。
※BADエンドの「永久ロスト」表記はロスト忌避と復活の軽率さに疑問を感じて制作した名残です。
ロストに永久も通常もないとお考えの方はあまり気にしないでください。
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